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荒野の百合(オリジナル)

投稿者:智秋
2016/09/05 23:50 [ 修正 ]
荒くれ者のリズベットは風の噂で『人喰らいの女傭兵』の話を聞く。人を生きたまま食べてしまう凶悪な女。そんな評価を聞いた決闘大好きリズベットは人喰らいと一戦交えるべく、人喰らいが根城にしている酒場に乗り込んだ。
女ガンマンと人喰らいの女傭兵のお話。
酒場のボロい扉が開いて、女が入ってきた。
まるで闘牛みたいに粗々しくブロンドの髪を揺らし、自身の存在を客に知らせるため、リボルバーを吠えさせる。
すると、先客とバーテンダーは目色を変えた。
しみったれたテーブルでポーカーを興じる者は、腰にいる相棒に触れ、不味そうな酒瓶の整理をしていたバーテンダーは、酒の代わりに散弾銃を取り出す。
女は、歓迎のない酒場に目を輝かせ、
「注目ありがとう。でもこれからもっと楽しくなるから、瞬き禁止よ」
そう言って拳銃をガンスピンさせる。
銃を弄ばしてからホルスターに収め、カウンター席に近づく。
お高い乗馬靴のヒールが、垢抜けた床を踏みつける。
まるで彼女の性格をあらわすように、ガンガンと響く。
そしてバーテンダーの鼻先。
荒くれ女は、高慢な素振りで、
「人喰らいの女傭兵っているかしら? さがしているのだけど」
わざと大きな声で尋ねる。
それに気を悪くしたのだろう。バーテンダーはポンプアクション方式の散弾銃を構えて、警告音代わりに排莢する。
「金を落とさない気狂いに、おれは喋る口は持ち合わせていない」
「気狂いとは失礼よ」
「失礼なのはお前だ。いきなり発砲するヤツを気狂いと言わないでなんて呼ぶ。変態か? それともクソッタレか?」
バーテンダーの罵声。でも、そんなの気にしていないのだろう。荒くれ女は余裕ぶって答える。
「客人って選択肢」
「なりたいなら金をだしな」
「ほぉー。だったらこれでお客さんになれるのかしら?」
女はスマイルと同時に、胸のせいで膨らんだ皮ジャケットから現金を投げた。
それは馬を二頭買っても、お釣りがきそうな額だ。
お金を受け取るなりバーテンダーは、厄介払いするため銃で一人の客を指す。
視線誘導の先には女の子がいた。
華奢な体つきで赤毛、小奇麗な黒いローブを羽織っている。
この無骨な酒場には似合わない、聖女じみた少女だ。
でも神々に祝福はしてないらしく、女とイエス様を気にすることなくフォークとナイフで肉を食べている。ここいらじゃ見かけないほど上品だ。
「へぇーあれが人喰らい……意外だわ」
荒くれの女は呟いた。
噂では、人間を生きたまま食ってしまうバケモノと聞いていたから、てっきりクラーケンのような恐ろしい外見をしていると思っていたのだ。
はたから見ると可愛い少女。
それでも腹のなかに秘密を隠しているかもしれない。
荒くれ女はバーテンダーに手を振ってから、人喰らいが座る席へと進んだ。
「ハロー人喰らいさん。あたしとランチしましょ」
人喰らいの少女は、来客を手で制して、
「ちょっとまって。今はこっち食べの」
少女の声は清んでいた。
風の噂で聞いた血肉の匂いはしない。
それどころか天使みたいな声だ。
思いのほか愛らしい声に、荒くれの女は荒くれ者らしく食事テーブルを蹴りつけた。
肉と皿が床に散乱。少女の肉が無残なことになる。
そして荒くれの女は、豪快に嘲笑う。
「ならこれで、あたしとランチタイムをする気になったでしょ。もちろんナイフとフォークじゃなくて銃と弾丸で、ね」
口元を限界まで裂けさせて、右手に回転式拳銃を構える。
そして荒くれ女の目が、凛々と輝く。
決闘者の目だ。
一つの命をベットして、一発の弾丸でジャンクポットを狙う。命を賭けあう変態じみた行為が、大好きでだいすきで仕方のない決闘者の目だ。
荒くれ女の眼球に恐怖はない。
それどころか高揚が垣間見える。
片や人喰らいの女傭兵こと聖少女は、不満げに顔をしかめた。
「そう、そんなに食べて欲しいんだ」
その一言で、少女の手に回転式拳銃が手品のように現れた。
早く、一瞬で、唐突に。
互いに銃を突きつける。
銃で撃ちあう前に、荒くれ女が言う。
「あら凄い。でもここで殺しあってもいいけど、人喰らいさん。外に出て決闘の形にしない?」
「それもそう。ここのお肉、大好きだからお店をめちゃくちゃにしたくない。お外でヤリ合いましょ」
「へぇー肉が好きなの。さすが人喰らいだわ」
「うん」
「あたしも肉大好き。あ、人肉は射程外よ」
「人は食べないよ」
「え、じゃそれは?」
リズは視線で肉を指す。
「あれは人のお肉じゃない。ハゲタカのお肉。それと、人喰らいってお名前は好きじゃないの。親しみを込めてエリー、てよんで」
「可愛い名前ね。たしかに人喰らいよりもエリーの方が好きだわ。じゃあたしはリズベットだから……リズ、とよんでね」
二人は会話を弾ませる。
しかし視線や手に持つ獲物から、殺意が迸る。
「リズ――素敵な名前」
「ありがとう。でもお喋りはここまで」
一呼吸おいてから心底楽しそうに、
「決闘よ」
――……――
荒くれリズと人喰らいエリーは、町外れにきていた。
夕日が荒野奥へと帰ってくなか、エリーたってのお願いで、町から離れて決闘することにしたのだ。
エリー曰く。
「流れ弾が人に当たったら、お夕食が不味くなっちゃう」
とのこと。
でもリズにとっては関係なかった。
他人に銃弾が当たって墓穴に放り込まれようが、どうでもいい。
決闘とはお互いに了承して成り立つエクスタシーだ。
それを得るために払われる犠牲は度外視する。
「とりあえずこれで問題はないかしら、エリー?」
「うん」
でも、とエリーは可愛いくも無表情な顔を傾けた。
「リズ。決闘のルールはどうするの?」
「簡単よ、お互いに背中合わせになって十歩ずつ進む。で、十歩目でズドン!」
指で作った拳銃を、自身の頭部に押し付け、痛快に反動を再現。リズはニヤリと笑う。
「でもリズ……それだと背中からヤッちゃうかもだよ」
「いやいや、ないない! そんなことしたら卑怯者扱いされて、あの店でランチ食べられなくなるわよ」
「なんで? エリーとリズしかいないのに」
いぶかしげにエリーは、にらみつけてきた。声色から疑問を読み取れる。
「あたしの雇った従者がここにくるのさ。死体を回収する役割でね。そのとき、大いに言いふらすのよ。だれだれが女神さまに愛されて、どこのバカが無様に死んだのかをね」
「噂になるの?」
「そう、だから背後から殺したら卑怯者のレッテルを張られるわね。純粋無垢な子供からは石を投げられ、道端でレイプされても文句を言えないような立場になることまったなし」
そう、わかった。じゃ背中合わせに十歩ね。エリーは小さく呟く。
「ものわかりが早くて助かるわ。さて、始めるわよ」
リズは背中を向けた。
視線の先には沈んでゆく太陽。
空が赤い。
エリーは背丈が低いため、背中を合わせるよう背伸びをする。
背中合わせになってから、リズがカウントを始める。
「一歩目、いーちぃ」
リズとエリーは歩みを進めた。
互いに足で砂粒をかみしめる。
「二歩目、にーぃ」
さらに一歩。
リズの履いている乗馬ブーツからガチャリと金属音。
「三歩目、さーんっ」
生と死に近づく。
「四歩目、しーぃ」
リズの指が、回転式拳銃に伸びる。
けど、まだ余裕だ。ハンドグリップにすら触れていない。
「五歩目、ごーぉ」
数を半分言い終えて、喉から興奮が込みあがる。
緊張はしていないが、自然と笑みが漏れる。
これは自信だ。
「六歩目、ろーくぅ」
ゆっくりと、リズは自身の回転式拳銃、コルト・シングルアクション・アーミーに触れる。六発突っ込んだ45LC弾が今にも飛び出しそうなぐらいだ。自身の手になじむよう作り替えたハンドグリップに、いくつもの心情を混ぜ合わせる。
「七歩目、なーなぁ」
あと三歩。
リズは準備万端であった。
夕日に背を向けられる形で決闘を申し入れて、自身だけがカウントしている。これは自身のタイミングで口火を開けるし、エリーは振り向けば夕日で目をくらませて射撃はできない状況だ。主導権は完全にリズが握っている。
確殺できる状況だ。
リズは心底で高笑いした。
十歩目で、エリーに風穴を開ければ、自身の黒星がまた増える。それもおっきな黒星。
「八歩目、はーちぃ」
残り二歩。
振り向きざまにぶち抜く準備はできている。
まぶしいほどの夕日に向かってリズは笑う。たぶん脳は絶頂しそうなぐらい高揚して、マリファナを決めたみたくアドレナリンがあふれのだろう。
「九歩目、きゅーぅ」
ラスト一歩。
さぁ、心臓に穴開けてデスダンスしましょう。
「十ぽっ」
言い切る前に振り向こうとしたら、腹部にこぶしが突き刺さった。
深々と、骨に響き渡るような打撃。
肺に入っていた空気が抜ける。
腹がくの字に曲がる。そしてすぐ首をつかまれて地面へと叩きつけられた。
リズは、なすすべなく地べたに突っ伏した。
ひどい吐き気に襲われるが、状況を理解しようと躍起になる。
「……ッが、くそったれ!」
うつぶせのまま血反吐を吐く思いで見上げたら、エリーが回転式拳銃で遊んでいた。
ただ、それは自分のコルト・シングルアクション・アーミーだった。
振り向きざまに構えたはずの銃が盗られている。
まるで手品を見せられた気分だ。
血がにじむほど奥歯をかみしめるリズに、エリーはみおろして、
「エリーの勝ち」
「勝ちって、テメェ!」
エリーはなんのことだかわからないって感じに小首をかしげた。
「なにか間違ってる?」
「間違いだらけだクソアマ!」
「そうかな。エリー立ってる、リズ倒れてる。どっちが勝ったのかは明白」
「勝ち負け以前の問題でしょうが。決闘なのに銃つかわないとか聞いたことないわ!」
打ちどころが悪かったのか、手足にうまく力が入らない。そんなリズの咆哮に、エリーが淡々と答える。
「リズが聞いてなかっただけ」
「てか、どうやって近くまできたのよ」
「同じ方向にエリーも歩いた。できるだけ足音立てずに」
「ファック! ガンマンの風上にも置けないクズ野郎め!」
「マンじゃないレディだよ。それと野郎じゃなくて淑女」
まったくもってエリーは、リズの激怒に興味がないらしい。
「ねぇリズ。決闘の勝者には、なんかもらえるの?」
「勝手に勝利者面してんじゃないわよ」
エリーの足蹴りで、リズは仰向けとなった。おかげで真っ赤な空を見上げてしまう。
「もう一度聞くよリズ。勝者にはなにかもらえるの?」
「……ねぇーよ。せいぜい対戦相手の命と悪名ぐらいよ」
「あんまりうれしくない景品」
「だったら捨てればいい。ここであたしをぶっ殺して、こっちくる従者も八つ裂きにすれば万事オーケーかもよ」
「それもそうか」
そう言って、奪い盗ったコルト・シングルアクション・アーミーで十字を切った。その間になにか呟いていたが、リズには風の音しか聞こえない。
「最悪よ。このあたしがこんな終わり方するなんて」
「しかたないよ、負けたんだもん。でも大丈夫」
大丈夫? その言葉で、リズは笑い始めた。
「この体たらくで大丈夫だぁ? はは! 最上級のジョークだね。笑えるわ」
「リズがおバカさんになちゃった」
「なんとでも言えばいい。相棒を奪われてなんもできないまま、無様に死んでいく哀れな女の末路……やられ方は腑に落ちないけど……勝者のエリーには見る権利があるわ」
ひとしきり笑ったリズ。
今までの決闘生活はここで終わる。自分の死体は誰にも回収されないまま、ハイエナとかの餌になるのだろう。
それもまた一興か、とリズは言う。
「さぁ殺って。もう悔いはないわ」
「そう、なら遠慮しない」
エリーはリズのコルト・シングルアクション・アーミーを掲げて、装填してあった六発の45LC弾を排莢した。
リズは目を丸くした。なぜ弾を捨る?
その答えはすぐに出た。
銃を放り捨てたエリーは、リズを押さえつけるように馬乗りをする。
「ちょ、なにやっているのエリ――」
言葉を交わす前に、リズの口が防がれた。
キス、とても深いキス。
唇と唇が合わさって、エリーの舌が無理やり侵入。
唾液が混ぜられる。
リズは抵抗しようとするが、手足は強く固定され、口から垂れる液と、むせ返るほど甘いエリーの匂いに、うめき声を上げるしかない。
「んっ、んぅー!」
じゅくじゅくと音が漏れる。
幾度もエリーの舌が巡回して、ようやく離れた。
エリーとリズの間に唾液の糸が伸びる。
「はぁー……はぁー。んっくん……リズって美味しい」
「な、なにするのよエリー……!」
動けない上に、熱い抱擁のせいで目がトロンとなったリズ。理性を保つため、荒くれさを全力で行使し吠えた。
それをものともせず、口にべっとりついた唾液を指でからめとり、しゃぶり始めるエリー。
「ディープキス」
「意味が違う! そうじゃなくって、な……なんでこんなことをしたのよ!」
「エリーは勝者。リズは敗者。勝者は敗者を好きにしても許される。だから性的に食べる。リズはエリーのモノ。とっても綺麗で魅力的な食べ物」
唖然とするリズ。
ようは襲う、てことだと直感。
もう一度キスするためかエリーの顔が近づいてくるので、首を激しく振って抵抗した。
「ちょいまって! こう言うのはロマンチックに告白をするのが常識なのよ!」
「じゃ告白する。初めて会った時から、手足へし折って動けなくしてからヤろうと思った」
「ロマンチックがミリ単位もない!」
「ロマンチックをご希望? ならこう。決闘より気持ちよくするから、一生エリーの傍で愛し合いましょ」
「丁重にお断りを」
「じゃ、いただきます」
グイっとエリーはリズの顎を指で誘い、激しく唇を交わした。今度はケモノみたく愛撫をしながら。
荒野に喘ぎ声が響いた。
まるで闘牛みたいに粗々しくブロンドの髪を揺らし、自身の存在を客に知らせるため、リボルバーを吠えさせる。
すると、先客とバーテンダーは目色を変えた。
しみったれたテーブルでポーカーを興じる者は、腰にいる相棒に触れ、不味そうな酒瓶の整理をしていたバーテンダーは、酒の代わりに散弾銃を取り出す。
女は、歓迎のない酒場に目を輝かせ、
「注目ありがとう。でもこれからもっと楽しくなるから、瞬き禁止よ」
そう言って拳銃をガンスピンさせる。
銃を弄ばしてからホルスターに収め、カウンター席に近づく。
お高い乗馬靴のヒールが、垢抜けた床を踏みつける。
まるで彼女の性格をあらわすように、ガンガンと響く。
そしてバーテンダーの鼻先。
荒くれ女は、高慢な素振りで、
「人喰らいの女傭兵っているかしら? さがしているのだけど」
わざと大きな声で尋ねる。
それに気を悪くしたのだろう。バーテンダーはポンプアクション方式の散弾銃を構えて、警告音代わりに排莢する。
「金を落とさない気狂いに、おれは喋る口は持ち合わせていない」
「気狂いとは失礼よ」
「失礼なのはお前だ。いきなり発砲するヤツを気狂いと言わないでなんて呼ぶ。変態か? それともクソッタレか?」
バーテンダーの罵声。でも、そんなの気にしていないのだろう。荒くれ女は余裕ぶって答える。
「客人って選択肢」
「なりたいなら金をだしな」
「ほぉー。だったらこれでお客さんになれるのかしら?」
女はスマイルと同時に、胸のせいで膨らんだ皮ジャケットから現金を投げた。
それは馬を二頭買っても、お釣りがきそうな額だ。
お金を受け取るなりバーテンダーは、厄介払いするため銃で一人の客を指す。
視線誘導の先には女の子がいた。
華奢な体つきで赤毛、小奇麗な黒いローブを羽織っている。
この無骨な酒場には似合わない、聖女じみた少女だ。
でも神々に祝福はしてないらしく、女とイエス様を気にすることなくフォークとナイフで肉を食べている。ここいらじゃ見かけないほど上品だ。
「へぇーあれが人喰らい……意外だわ」
荒くれの女は呟いた。
噂では、人間を生きたまま食ってしまうバケモノと聞いていたから、てっきりクラーケンのような恐ろしい外見をしていると思っていたのだ。
はたから見ると可愛い少女。
それでも腹のなかに秘密を隠しているかもしれない。
荒くれ女はバーテンダーに手を振ってから、人喰らいが座る席へと進んだ。
「ハロー人喰らいさん。あたしとランチしましょ」
人喰らいの少女は、来客を手で制して、
「ちょっとまって。今はこっち食べの」
少女の声は清んでいた。
風の噂で聞いた血肉の匂いはしない。
それどころか天使みたいな声だ。
思いのほか愛らしい声に、荒くれの女は荒くれ者らしく食事テーブルを蹴りつけた。
肉と皿が床に散乱。少女の肉が無残なことになる。
そして荒くれの女は、豪快に嘲笑う。
「ならこれで、あたしとランチタイムをする気になったでしょ。もちろんナイフとフォークじゃなくて銃と弾丸で、ね」
口元を限界まで裂けさせて、右手に回転式拳銃を構える。
そして荒くれ女の目が、凛々と輝く。
決闘者の目だ。
一つの命をベットして、一発の弾丸でジャンクポットを狙う。命を賭けあう変態じみた行為が、大好きでだいすきで仕方のない決闘者の目だ。
荒くれ女の眼球に恐怖はない。
それどころか高揚が垣間見える。
片や人喰らいの女傭兵こと聖少女は、不満げに顔をしかめた。
「そう、そんなに食べて欲しいんだ」
その一言で、少女の手に回転式拳銃が手品のように現れた。
早く、一瞬で、唐突に。
互いに銃を突きつける。
銃で撃ちあう前に、荒くれ女が言う。
「あら凄い。でもここで殺しあってもいいけど、人喰らいさん。外に出て決闘の形にしない?」
「それもそう。ここのお肉、大好きだからお店をめちゃくちゃにしたくない。お外でヤリ合いましょ」
「へぇー肉が好きなの。さすが人喰らいだわ」
「うん」
「あたしも肉大好き。あ、人肉は射程外よ」
「人は食べないよ」
「え、じゃそれは?」
リズは視線で肉を指す。
「あれは人のお肉じゃない。ハゲタカのお肉。それと、人喰らいってお名前は好きじゃないの。親しみを込めてエリー、てよんで」
「可愛い名前ね。たしかに人喰らいよりもエリーの方が好きだわ。じゃあたしはリズベットだから……リズ、とよんでね」
二人は会話を弾ませる。
しかし視線や手に持つ獲物から、殺意が迸る。
「リズ――素敵な名前」
「ありがとう。でもお喋りはここまで」
一呼吸おいてから心底楽しそうに、
「決闘よ」
――……――
荒くれリズと人喰らいエリーは、町外れにきていた。
夕日が荒野奥へと帰ってくなか、エリーたってのお願いで、町から離れて決闘することにしたのだ。
エリー曰く。
「流れ弾が人に当たったら、お夕食が不味くなっちゃう」
とのこと。
でもリズにとっては関係なかった。
他人に銃弾が当たって墓穴に放り込まれようが、どうでもいい。
決闘とはお互いに了承して成り立つエクスタシーだ。
それを得るために払われる犠牲は度外視する。
「とりあえずこれで問題はないかしら、エリー?」
「うん」
でも、とエリーは可愛いくも無表情な顔を傾けた。
「リズ。決闘のルールはどうするの?」
「簡単よ、お互いに背中合わせになって十歩ずつ進む。で、十歩目でズドン!」
指で作った拳銃を、自身の頭部に押し付け、痛快に反動を再現。リズはニヤリと笑う。
「でもリズ……それだと背中からヤッちゃうかもだよ」
「いやいや、ないない! そんなことしたら卑怯者扱いされて、あの店でランチ食べられなくなるわよ」
「なんで? エリーとリズしかいないのに」
いぶかしげにエリーは、にらみつけてきた。声色から疑問を読み取れる。
「あたしの雇った従者がここにくるのさ。死体を回収する役割でね。そのとき、大いに言いふらすのよ。だれだれが女神さまに愛されて、どこのバカが無様に死んだのかをね」
「噂になるの?」
「そう、だから背後から殺したら卑怯者のレッテルを張られるわね。純粋無垢な子供からは石を投げられ、道端でレイプされても文句を言えないような立場になることまったなし」
そう、わかった。じゃ背中合わせに十歩ね。エリーは小さく呟く。
「ものわかりが早くて助かるわ。さて、始めるわよ」
リズは背中を向けた。
視線の先には沈んでゆく太陽。
空が赤い。
エリーは背丈が低いため、背中を合わせるよう背伸びをする。
背中合わせになってから、リズがカウントを始める。
「一歩目、いーちぃ」
リズとエリーは歩みを進めた。
互いに足で砂粒をかみしめる。
「二歩目、にーぃ」
さらに一歩。
リズの履いている乗馬ブーツからガチャリと金属音。
「三歩目、さーんっ」
生と死に近づく。
「四歩目、しーぃ」
リズの指が、回転式拳銃に伸びる。
けど、まだ余裕だ。ハンドグリップにすら触れていない。
「五歩目、ごーぉ」
数を半分言い終えて、喉から興奮が込みあがる。
緊張はしていないが、自然と笑みが漏れる。
これは自信だ。
「六歩目、ろーくぅ」
ゆっくりと、リズは自身の回転式拳銃、コルト・シングルアクション・アーミーに触れる。六発突っ込んだ45LC弾が今にも飛び出しそうなぐらいだ。自身の手になじむよう作り替えたハンドグリップに、いくつもの心情を混ぜ合わせる。
「七歩目、なーなぁ」
あと三歩。
リズは準備万端であった。
夕日に背を向けられる形で決闘を申し入れて、自身だけがカウントしている。これは自身のタイミングで口火を開けるし、エリーは振り向けば夕日で目をくらませて射撃はできない状況だ。主導権は完全にリズが握っている。
確殺できる状況だ。
リズは心底で高笑いした。
十歩目で、エリーに風穴を開ければ、自身の黒星がまた増える。それもおっきな黒星。
「八歩目、はーちぃ」
残り二歩。
振り向きざまにぶち抜く準備はできている。
まぶしいほどの夕日に向かってリズは笑う。たぶん脳は絶頂しそうなぐらい高揚して、マリファナを決めたみたくアドレナリンがあふれのだろう。
「九歩目、きゅーぅ」
ラスト一歩。
さぁ、心臓に穴開けてデスダンスしましょう。
「十ぽっ」
言い切る前に振り向こうとしたら、腹部にこぶしが突き刺さった。
深々と、骨に響き渡るような打撃。
肺に入っていた空気が抜ける。
腹がくの字に曲がる。そしてすぐ首をつかまれて地面へと叩きつけられた。
リズは、なすすべなく地べたに突っ伏した。
ひどい吐き気に襲われるが、状況を理解しようと躍起になる。
「……ッが、くそったれ!」
うつぶせのまま血反吐を吐く思いで見上げたら、エリーが回転式拳銃で遊んでいた。
ただ、それは自分のコルト・シングルアクション・アーミーだった。
振り向きざまに構えたはずの銃が盗られている。
まるで手品を見せられた気分だ。
血がにじむほど奥歯をかみしめるリズに、エリーはみおろして、
「エリーの勝ち」
「勝ちって、テメェ!」
エリーはなんのことだかわからないって感じに小首をかしげた。
「なにか間違ってる?」
「間違いだらけだクソアマ!」
「そうかな。エリー立ってる、リズ倒れてる。どっちが勝ったのかは明白」
「勝ち負け以前の問題でしょうが。決闘なのに銃つかわないとか聞いたことないわ!」
打ちどころが悪かったのか、手足にうまく力が入らない。そんなリズの咆哮に、エリーが淡々と答える。
「リズが聞いてなかっただけ」
「てか、どうやって近くまできたのよ」
「同じ方向にエリーも歩いた。できるだけ足音立てずに」
「ファック! ガンマンの風上にも置けないクズ野郎め!」
「マンじゃないレディだよ。それと野郎じゃなくて淑女」
まったくもってエリーは、リズの激怒に興味がないらしい。
「ねぇリズ。決闘の勝者には、なんかもらえるの?」
「勝手に勝利者面してんじゃないわよ」
エリーの足蹴りで、リズは仰向けとなった。おかげで真っ赤な空を見上げてしまう。
「もう一度聞くよリズ。勝者にはなにかもらえるの?」
「……ねぇーよ。せいぜい対戦相手の命と悪名ぐらいよ」
「あんまりうれしくない景品」
「だったら捨てればいい。ここであたしをぶっ殺して、こっちくる従者も八つ裂きにすれば万事オーケーかもよ」
「それもそうか」
そう言って、奪い盗ったコルト・シングルアクション・アーミーで十字を切った。その間になにか呟いていたが、リズには風の音しか聞こえない。
「最悪よ。このあたしがこんな終わり方するなんて」
「しかたないよ、負けたんだもん。でも大丈夫」
大丈夫? その言葉で、リズは笑い始めた。
「この体たらくで大丈夫だぁ? はは! 最上級のジョークだね。笑えるわ」
「リズがおバカさんになちゃった」
「なんとでも言えばいい。相棒を奪われてなんもできないまま、無様に死んでいく哀れな女の末路……やられ方は腑に落ちないけど……勝者のエリーには見る権利があるわ」
ひとしきり笑ったリズ。
今までの決闘生活はここで終わる。自分の死体は誰にも回収されないまま、ハイエナとかの餌になるのだろう。
それもまた一興か、とリズは言う。
「さぁ殺って。もう悔いはないわ」
「そう、なら遠慮しない」
エリーはリズのコルト・シングルアクション・アーミーを掲げて、装填してあった六発の45LC弾を排莢した。
リズは目を丸くした。なぜ弾を捨る?
その答えはすぐに出た。
銃を放り捨てたエリーは、リズを押さえつけるように馬乗りをする。
「ちょ、なにやっているのエリ――」
言葉を交わす前に、リズの口が防がれた。
キス、とても深いキス。
唇と唇が合わさって、エリーの舌が無理やり侵入。
唾液が混ぜられる。
リズは抵抗しようとするが、手足は強く固定され、口から垂れる液と、むせ返るほど甘いエリーの匂いに、うめき声を上げるしかない。
「んっ、んぅー!」
じゅくじゅくと音が漏れる。
幾度もエリーの舌が巡回して、ようやく離れた。
エリーとリズの間に唾液の糸が伸びる。
「はぁー……はぁー。んっくん……リズって美味しい」
「な、なにするのよエリー……!」
動けない上に、熱い抱擁のせいで目がトロンとなったリズ。理性を保つため、荒くれさを全力で行使し吠えた。
それをものともせず、口にべっとりついた唾液を指でからめとり、しゃぶり始めるエリー。
「ディープキス」
「意味が違う! そうじゃなくって、な……なんでこんなことをしたのよ!」
「エリーは勝者。リズは敗者。勝者は敗者を好きにしても許される。だから性的に食べる。リズはエリーのモノ。とっても綺麗で魅力的な食べ物」
唖然とするリズ。
ようは襲う、てことだと直感。
もう一度キスするためかエリーの顔が近づいてくるので、首を激しく振って抵抗した。
「ちょいまって! こう言うのはロマンチックに告白をするのが常識なのよ!」
「じゃ告白する。初めて会った時から、手足へし折って動けなくしてからヤろうと思った」
「ロマンチックがミリ単位もない!」
「ロマンチックをご希望? ならこう。決闘より気持ちよくするから、一生エリーの傍で愛し合いましょ」
「丁重にお断りを」
「じゃ、いただきます」
グイっとエリーはリズの顎を指で誘い、激しく唇を交わした。今度はケモノみたく愛撫をしながら。
荒野に喘ぎ声が響いた。
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