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【百合文芸部課題】黄昏(オリジナル)
「黄昏時ってあるでしょ」
美尋はいつも唐突だ。
部活からの帰り道、隣を歩いている美尋がそんなことを言った。
「え、ああ、うん。あるね。夕方のことだよね」
「そうそう」
静かな住宅地を並んで歩く。
季節はもう11月も終わりかけていて、夜が早くなった。
秋といえば夕暮れ、と有名なブロガーも言っているし確かにいい時期なのだろうけれど、部活を終えて校門をくぐればもう真っ暗。
感傷に浸る時間もなく、あっという間に日が落ちてしまうことが、寂しいといえば寂しい。
「たそがれって、暗くなって相手の顔が見えなくなって、『そこにいるのは誰?』ってなることから生まれたらしいよ」
「へえ」
「でもそれって、昔だからできた話だよね。今なら、真夜中でも街灯とかあるし」
「まあね」
辺りはすっかり夜になってしまったが、時刻はまだ6時過ぎ。
通り過ぎていく家々から夕飯の匂いがしたり団らんの声が聞こえたりする。
ひんやりとした空気が美尋と私の間をすり抜けていく。
「この辺だったらできるかな」
と、美尋が立ち止まる。
「何を?」
「たそがれ。『そこにいるのは誰?』って」
きょろきょろと周囲を見渡す美尋。
街灯と街灯のちょうど中間点。確かに多少離れれば、相手の顔が見えなくなるかもしれない。
「やろうよ、たそがれ」
「やるって、どうやって?」
「そこに立っててね」
ぱたぱたと軽快な音を立てて美尋が駆け出す。
数メートルの距離ができて、彼女の表情が見えなくなった。
見えなくなったとはいえ、制服姿も鞄についたスポンジのぬいぐるみもはっきり分かる。そもそも二人しかいないのだから『そこにいるのは誰?』とはならないだろう。
「ほらほら、まーちゃん。わたしの顔、分かる?」
「いや、顔は分かんないけど……」
そもそもそれ以前の問題じゃないか、と野暮なツッコミはしない。
下らないことを思いついてすぐ行動に移すのはいつものことだ。
「じゃあ、たそがれだね!」
「そうだね」
だからなんなんだろう、と呆れた気分になるけれど、それもまた美尋の可愛いところなのだろう。
行動力の高さにだけは本当、感服する。
「今なら私が誰か分からないかな」
「分かるか分からないかで言われると……」
「分からないよね?」
「そうだね……」
結局同じ言葉を返してしまう。
甘いな、我ながら。
顔が見えない幼馴染は、数メートル先ではしゃいでいたかと思うと、ふと静かになった。
「ねえ、まーちゃん」
「ん?」
「今なら、わたしが誰かは分からないよね」
「まあね」
「わたしは誰でしょう」
「……さあ、誰かなあ。顔が見えないからよく分からないや」
美尋が口をつぐんだ。
あまりに棒読み過ぎて怒っちゃったかな。
近づこうと足を踏み出して、「待って」と声をかけられる。
「そこにいて」
「いいけど……」
「好きだよ」
「へ?」
「まーちゃんのことが好き。ずっと言えなかったけど」
「……本気?」
「わたしのこの真剣な表情が見えないっていうの?」
「いやいや」
一歩踏み出すと、美尋が一歩後ろに下がる。
もう一歩踏み出す。もう一歩下がる。
三歩進むと三歩下がる。
五歩進むと五歩下がって、美尋は街灯の下に辿り着いた。
「あっ」
美尋が足を止める。
声を挙げたのはどちらだったか。
白い光を落とす蛍光灯の下で、幼馴染が見たことのない顔をしていた。
「すごいね、美尋」
「え?」
「顔が真っ赤だよ。夕日みたい」
慌てて俯き、両手で顔を隠す美尋。
こんな美尋、今まで見たことがない。
美尋に歩み寄る。彼女はもう後ずさろうとしない。
一歩一歩と距離が近づき、やがて私もまた街灯の光を浴びる位置までやってきた。
「ほんと……そこにいるのは誰って感じ」
すっかり冷え切った手を取る。全身をびくっと震わせて、でも振り払うことはしなかった。
私たちは手をつないだまま、街灯の下で佇んでいた。
「返事くれるよね」
突然顔を上げた美尋が言う。
「また唐突だね……」
「くれるでしょ?」
「するよ、するけどさ」
一歩下がって、美尋から距離を取る。
「一日だけ待ってて」
「え?」
「明日の黄昏時に、返事をするよ」
私もたぶん、顔を見られたくはないだろうから。
美尋はいつも唐突だ。
部活からの帰り道、隣を歩いている美尋がそんなことを言った。
「え、ああ、うん。あるね。夕方のことだよね」
「そうそう」
静かな住宅地を並んで歩く。
季節はもう11月も終わりかけていて、夜が早くなった。
秋といえば夕暮れ、と有名なブロガーも言っているし確かにいい時期なのだろうけれど、部活を終えて校門をくぐればもう真っ暗。
感傷に浸る時間もなく、あっという間に日が落ちてしまうことが、寂しいといえば寂しい。
「たそがれって、暗くなって相手の顔が見えなくなって、『そこにいるのは誰?』ってなることから生まれたらしいよ」
「へえ」
「でもそれって、昔だからできた話だよね。今なら、真夜中でも街灯とかあるし」
「まあね」
辺りはすっかり夜になってしまったが、時刻はまだ6時過ぎ。
通り過ぎていく家々から夕飯の匂いがしたり団らんの声が聞こえたりする。
ひんやりとした空気が美尋と私の間をすり抜けていく。
「この辺だったらできるかな」
と、美尋が立ち止まる。
「何を?」
「たそがれ。『そこにいるのは誰?』って」
きょろきょろと周囲を見渡す美尋。
街灯と街灯のちょうど中間点。確かに多少離れれば、相手の顔が見えなくなるかもしれない。
「やろうよ、たそがれ」
「やるって、どうやって?」
「そこに立っててね」
ぱたぱたと軽快な音を立てて美尋が駆け出す。
数メートルの距離ができて、彼女の表情が見えなくなった。
見えなくなったとはいえ、制服姿も鞄についたスポンジのぬいぐるみもはっきり分かる。そもそも二人しかいないのだから『そこにいるのは誰?』とはならないだろう。
「ほらほら、まーちゃん。わたしの顔、分かる?」
「いや、顔は分かんないけど……」
そもそもそれ以前の問題じゃないか、と野暮なツッコミはしない。
下らないことを思いついてすぐ行動に移すのはいつものことだ。
「じゃあ、たそがれだね!」
「そうだね」
だからなんなんだろう、と呆れた気分になるけれど、それもまた美尋の可愛いところなのだろう。
行動力の高さにだけは本当、感服する。
「今なら私が誰か分からないかな」
「分かるか分からないかで言われると……」
「分からないよね?」
「そうだね……」
結局同じ言葉を返してしまう。
甘いな、我ながら。
顔が見えない幼馴染は、数メートル先ではしゃいでいたかと思うと、ふと静かになった。
「ねえ、まーちゃん」
「ん?」
「今なら、わたしが誰かは分からないよね」
「まあね」
「わたしは誰でしょう」
「……さあ、誰かなあ。顔が見えないからよく分からないや」
美尋が口をつぐんだ。
あまりに棒読み過ぎて怒っちゃったかな。
近づこうと足を踏み出して、「待って」と声をかけられる。
「そこにいて」
「いいけど……」
「好きだよ」
「へ?」
「まーちゃんのことが好き。ずっと言えなかったけど」
「……本気?」
「わたしのこの真剣な表情が見えないっていうの?」
「いやいや」
一歩踏み出すと、美尋が一歩後ろに下がる。
もう一歩踏み出す。もう一歩下がる。
三歩進むと三歩下がる。
五歩進むと五歩下がって、美尋は街灯の下に辿り着いた。
「あっ」
美尋が足を止める。
声を挙げたのはどちらだったか。
白い光を落とす蛍光灯の下で、幼馴染が見たことのない顔をしていた。
「すごいね、美尋」
「え?」
「顔が真っ赤だよ。夕日みたい」
慌てて俯き、両手で顔を隠す美尋。
こんな美尋、今まで見たことがない。
美尋に歩み寄る。彼女はもう後ずさろうとしない。
一歩一歩と距離が近づき、やがて私もまた街灯の光を浴びる位置までやってきた。
「ほんと……そこにいるのは誰って感じ」
すっかり冷え切った手を取る。全身をびくっと震わせて、でも振り払うことはしなかった。
私たちは手をつないだまま、街灯の下で佇んでいた。
「返事くれるよね」
突然顔を上げた美尋が言う。
「また唐突だね……」
「くれるでしょ?」
「するよ、するけどさ」
一歩下がって、美尋から距離を取る。
「一日だけ待ってて」
「え?」
「明日の黄昏時に、返事をするよ」
私もたぶん、顔を見られたくはないだろうから。
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