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妹の夜は長い(オリジナル)
壁一枚隔てた向こう側から、お姉ちゃんがかしましい声を挙げているのが聞こえている。今日もまた夜遅くまで友達と長電話をしているらしい。机に向かってカリカリとシャーペンを走らせているこっちの身にもなれ。テストの二週間前だからあたしが正しいのだ。あっちがキリギリスでこっちが蟻。なにこのたとえ、全然優越感ない。
国語のノートはチェックし終わった。化学と数学はひとまずおいて、英語にとりかかることにする。寝る前には単語の学習がいいと聞いたのを思い出し、教科書とノートをめくって、マーキングしてある間違えやすい単語をみつける。
隣の部屋の急に大きくなる笑い声を背中で聞きながら、規則正しくルーズリーフに文字を刻み込んでいく。机とシャーペンの織りなす硬質な音がざわめく心をなんとか落ち着かせているが、それでも心なしかシャーペンを握る手がいつもより固く握りしめられているのに気付く。
いらいらしちゃだめだ。いらいらすると大抵余計いらいらすることが連鎖するんだ。このあいだ向こう脛をぶつけた教訓を無駄にはしない。それでもお姉ちゃんの能天気な話声が聞こえてくるたびに、どうしようもなく身体が硬直していくのがわかる。
腹筋にまで力が入ってきたところで、無理やりにでも身体を伸ばすためにベッドに倒れ込む。でもお姉ちゃんの部屋との物理的距離はむしろ近くなってしまうので、さっきよりもはっきりと話し声が聞こえてくる。
(えー、あの子結局告白しなかったのー?なんだぁ、明日どうなったか聞けると思ったのにー。)
同じ高校生であっても、あたしでは絶対しないような会話だ(他人と恋愛の話をするだなんて考えただけでぞっとする)。
(いやでも平泉成のモノマネは誰でもできるでしょー。)
話の落差がおかしい。一体どういう思考回路してたらそうなるの。ああもうだめだ。
立ち上がって部屋の中をぐるぐると回る。あの馬鹿姉め。いますぐ隣の部屋に乗りこんで電話を切ってあたしの前に正座させてやりたい。何か言いたそうにしても次から次へと文句を言って、絶対にお姉ちゃんにはしゃべる隙を与えない。それから口の中に指をつっこんで舌をコントロールしてまともにしゃべれない状況にする。そんでから何かしら紐的なもので身体を縛り上げて自由を奪う。そして思う存分お姉ちゃんの弱点であるふとももを攻略する。ちょっとずつ指先を這わせて、するするとその厚みの真ん中あたりまで到達し、徐々に体重をかけていく!こうしている間中ずっと謝罪を要求するのだ。もちろん指は口から抜かずに。
完璧だ。完璧な妹の逆襲だ。これだけ考えて実行しないというのは全国の妹のはしくれとしてありえない選択に違いない。妙にテンションが上がってきてまだ何も成し遂げていないのに思わずガッツポーズ。この逆襲、いつやるの?いまでしょ!ですよね林先生!お姉ちゃんはよく「そんな遅くまで起きて勉強してちゃダメだよ」と無駄に年上ぶるが、妹の夜も長いのだということを証明するときがきた!
ガッツポーズしたまま寝てしまっていたことに気がつくのは数時間後のことである。
国語のノートはチェックし終わった。化学と数学はひとまずおいて、英語にとりかかることにする。寝る前には単語の学習がいいと聞いたのを思い出し、教科書とノートをめくって、マーキングしてある間違えやすい単語をみつける。
隣の部屋の急に大きくなる笑い声を背中で聞きながら、規則正しくルーズリーフに文字を刻み込んでいく。机とシャーペンの織りなす硬質な音がざわめく心をなんとか落ち着かせているが、それでも心なしかシャーペンを握る手がいつもより固く握りしめられているのに気付く。
いらいらしちゃだめだ。いらいらすると大抵余計いらいらすることが連鎖するんだ。このあいだ向こう脛をぶつけた教訓を無駄にはしない。それでもお姉ちゃんの能天気な話声が聞こえてくるたびに、どうしようもなく身体が硬直していくのがわかる。
腹筋にまで力が入ってきたところで、無理やりにでも身体を伸ばすためにベッドに倒れ込む。でもお姉ちゃんの部屋との物理的距離はむしろ近くなってしまうので、さっきよりもはっきりと話し声が聞こえてくる。
(えー、あの子結局告白しなかったのー?なんだぁ、明日どうなったか聞けると思ったのにー。)
同じ高校生であっても、あたしでは絶対しないような会話だ(他人と恋愛の話をするだなんて考えただけでぞっとする)。
(いやでも平泉成のモノマネは誰でもできるでしょー。)
話の落差がおかしい。一体どういう思考回路してたらそうなるの。ああもうだめだ。
立ち上がって部屋の中をぐるぐると回る。あの馬鹿姉め。いますぐ隣の部屋に乗りこんで電話を切ってあたしの前に正座させてやりたい。何か言いたそうにしても次から次へと文句を言って、絶対にお姉ちゃんにはしゃべる隙を与えない。それから口の中に指をつっこんで舌をコントロールしてまともにしゃべれない状況にする。そんでから何かしら紐的なもので身体を縛り上げて自由を奪う。そして思う存分お姉ちゃんの弱点であるふとももを攻略する。ちょっとずつ指先を這わせて、するするとその厚みの真ん中あたりまで到達し、徐々に体重をかけていく!こうしている間中ずっと謝罪を要求するのだ。もちろん指は口から抜かずに。
完璧だ。完璧な妹の逆襲だ。これだけ考えて実行しないというのは全国の妹のはしくれとしてありえない選択に違いない。妙にテンションが上がってきてまだ何も成し遂げていないのに思わずガッツポーズ。この逆襲、いつやるの?いまでしょ!ですよね林先生!お姉ちゃんはよく「そんな遅くまで起きて勉強してちゃダメだよ」と無駄に年上ぶるが、妹の夜も長いのだということを証明するときがきた!
ガッツポーズしたまま寝てしまっていたことに気がつくのは数時間後のことである。
コメント 1
表示回数 1256 (since 2012/8/17)
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コメント
2013/09/04 16:58
いずれ決行する機会があったとして思い通りになるのか、姉に逆転され組み敷かれるパターンになるのか、どちらにも転びそうな余韻。余韻なのか妄想の余地なのか。
何事も腹八分目というが、物足りないくらいがちょうどいいということを再認識させられる。
いやこの場合妄想が余計に働きそうなので呼び水というべきなのかもしれないけれど。
ともあれ、一瞬で駆け抜ける熱量がとてもよいと思うのでした。