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パンツは燃えているか~第501統合戦闘航空団の7日間~(前篇)(ストライクウィッチーズ)

投稿者:jolt
2012/11/04 00:25 [ 修正 ]
現代史&戦史ネタだらけ(あんまり本気にしないでね)、時々微百合(もっさん×ミーナ)な501SWのお話です。今回はエーリカの一人称で進みます。因みにこのお話のストーリーライン、とあるアニメのお話からかなり頂いているので、気づいた方はご指摘上等、パクリ云々は堪忍ね。
百合的にはエイラーニャが有名なストパンですが、私はもっミーナも好きなので書かせて頂きました。それではどうぞ。
ある日のカールスラント空軍航空指令部庁舎。調査部室にて。
調査部員「部長・・・。」
調査部長「何だ?そんな情けない声を出して。」
部員「いや・・・先日頼まれていた501SWの調査報告書なんですがね・・・。」
部長「ああ、ハルトマンに報告を命じていた例の騒ぎか。思ったよりも早く上がって来たな。」
部員「そうでしょうねぇ・・・。」
部長「不気味な引き笑いをするな。どんな内容だったんだ?」
部員「読めば分かりますよ。」
部長「どれどれ・・・。」
連合軍報告様式2012F
情報機密性 Eランク
連合軍第501統合戦闘航空団における、指揮命令系統喪失の懸案に関しての報告書
報告書 第501統合戦闘航空団所属 エーリカ・ハルトマン 記
大人と子供の境目が、いちばん心が不安で大変だ。。
この度、ストライクウィッチーズはそれを身を以て知ることとなる。
今回、不肖エーリカ・ハルトマンが、ストライクウィッチーズに起きた混乱を報告させていただく。
・・・それは、9月16日に発生した小規模戦闘が発端であった。
スピード狂であるシャーロット・E・イェーガーが加速しすぎてストライカーユニットを壊したのだ。
本人は無事であり、ユニットを壊したこと自体は珍しくもないのだが、問題なのはその回数であった。
9月4日、宮藤芳佳がユニットを破損。原因は訓練中にリーネ(リネット・ビショップ)の胸に見惚れ、防御結界を張り忘れたこと。
9月8日、エイラ・イルマタル・ユーティライネンがユニットを破損。原因はサーニャ・V・リトヴャクとの喧嘩による情緒不安定。
そして翌週、今回の木曜日の事故で、9月に入って既に3回目。ユニットが無ければ出撃することはできず、戦力が減ることになる。
ミーナ隊長以下指揮官相当のウィッチが司令部にユニット及びウィッチの追加を掛け合うも許可されず、過酷なシフトで戦う羽目になった。
楽天家のリベリアン、シャーリーは新型ストライカーユニットに惚れ込み、任務外でも飛び回り続けていた。一見快活で微笑ましく見えるも、その裏ではユニットの消耗、枯渇が現実的問題として浮上し、結局発現してしまったということだ。今回の騒動の発端となったこのシャーリーの向こう見ずなバカ騒ぎとユニットの枯渇を、隊員たちは「暗黒の木曜日、おっぱいウォール街の悲劇」と呼んだ。
ここまでが騒動の序章であり、そして木曜日の夜、騒動は一気に過熱した。
夜の整備棟。
ボロボロになったユニットを見て、隊長のミーナが重い口を開く。
「・・・ユニット、もう無くなったんだっけ?」
「デフォルトのものならあるが、吹っ飛んだシャーリーのユニットは一点物のカスタムだからなあ。」
現場指揮官であり教官でもある坂本美緒が答える。
「でもスピード狂からスピードを取ったら、ただの狂人よ。どうにかしないとね。」
疲れからかいつになく棘のあるミーナの物言いに、坂本は少したじろぐ。
「言うなあ・・・。でも、修理を発注しても4,5日はかかるしなあ。」
「じゃあ、その感はシャーリーに大人しくしてもらうわ。車も没収ね。」
「・・・。」
軍人らしくハッキリと返事をしない坂本に、ミーナが訊く。
「どうしたの?」
「い、いやあ、文句があるわけではないんだが・・・これ以上穴を埋めるのは厳しいかな、と・・・。」
「皆で助け合うのがウチのモットーでしょ?」
「そうは言ってもなあ、連中、疲労がピークに達しているんだ。自分の時間が持てなくて辛そうだよ。」
「あなたがそれを言う?軍人なんだからしょうがないでしょう?」
「あのトゥルーデが弱音を吐くほどなんだぞ?“今月に入ってゆっくり電話できたのがたった2回、これは姉妹の仲の危機だ!”ってな。」
ミーナがふとアラートハンガー(夜間待機任務の詰所)を伺うと、当番であるトゥルーデがウトウトしていた。目の下にクマを作りながら、頬を赤く染めて夢見心地という、不健康極まりない顔つきであった。因みに私も当番だったが、同じく当番のペリーヌとポーカーをしていた(が、私は興味本位でふたりの動きを目で追っていた)。
「半月で二回も電話すれば充分すぎる気もするけど・・・。」
「家族を恋しく思う気持ちに、制限は無いさ。戦場にいると、特にそうだ。」
「・・・あなたって反則よね。普段厳しいのに、突然狙ったように優しくなるんだから。」
「私はそういうつもりじゃ・・・」
「それが自然にできるのがいいなって言ってるの。」
そう言ってこちらに振り返ったミーナの動作に、そこはかとない可愛さを感じたと、坂本は後に述懐していた。
「ミーナ、確かに上層部が頭でっかちなのは分かるけど、もう一回ユニットや人員の補充を掛け合ってみよう。」
「また小言を聴かされる羽目になるのね・・・。」
「私も一緒に行く。・・・側にいる!」
頼りがいのある坂本の言葉に、安らかな笑顔を見せたリーナ。
「・・・あなたがそこまで言うなら、仕方ないわね。」
書類を作らないとね、と言い、リーナは隊長室へ向かう。坂本の陳情が功を奏したのだ。
しかし坂本は、ここで“余計なこと”をする。事実上混乱の口火を切ったとされるこの意図せぬ奇襲攻撃は後に、隊員たちから“リメンバー宮藤部屋”と呼ばれることになる。
「宮藤の寝顔見てくれよ。ガキみたいだけど、疲れていてさ、何とかしてやりたくなるよ、あれ見ると。」
そう言って、隊員たちが休む寝室で、ふたりが目にしたのはアポカリプスであった。
シャーリーの胸に吸い付いたまま爆睡する宮藤。“ズボン”すら履いていなかった。
シャーリーはシャーリーで、自分と宮藤の“ズボン”をリベリオン軍M1ヘルメットよろしく二重構造で頭に被り、ご満悦の寝顔であった。
ルッキーニは珍しくシャーリーではなくリーネに抱きついていた。お互い逆さまで。互いの尻を求めて寝る様は、まさしく―――。
「な・・・何とかしてやりたくなるだろう?疲れる位戦闘しちゃってさ・・・ほら、まさしく巴戦(ドッグファイト)な格好で、ははっ。」
「ええ・・・そうねえ、夢の中でもコンバット・ハイのご様子で。」
「コンバットの意味が違うぞ、ミーナ。」
「どういうことなの、これ!?準待機中は自室就寝が原則でしょ!?何なのよ、この宴会後のような惨状は・・・ん?」
ミーナが何かを見つける。何かの本のようだ。
瞬間、坂本は戦慄する。そうだ、ここは宮藤の部屋・・・まずい。
「何?“魅惑の戦闘機動”・・・“機上のスプリットS”・・・“指先のロッテ戦法”・・・。」
「ダメだこりゃ。」
坂本がそう呟いたとき、本を読むミーナの顔から湯気が立っていた。怒りか、恥じらいか。少しカワイイとか思ってしまったのは内緒なんだろうが、私エーリカは坂本の口元がだらしなくなるのを目撃している。
「な・・・何よこれ!?こんな破廉恥な本で何をしようというの、宮藤さんは!?」
「こ、好奇心旺盛なんだよ・・・。」
「こんな好奇心要りません!ああもう、この子たちは明日からユニット修理完了までずっとシフト!・・・エイラとサーニャはどうかしら?」
「しっかりしていると思いたいが・・・。」
時既に遅し。部屋に辿りついた二人が見たのは、心も体もエイラによって「スオムス化」されたサーニャの姿であった。親密に眠る二人は、ここに記すことができないほどに密着し合っていた。
「・・・決まりね、美緒。」
「・・・裸の付き合いは、許してくれんのか?」
「ダメ。」
私は、制服だけでなく顔色まで真っ白になった坂本の姿を忘れることができない。
坂本は号令をかけた。
「ニイタカヤマノボレェエエーーーーッ!!」
それとともに起床ラッパが鳴り、隊員一同整列させられる。
ミーナは訓示を始めた。
「あなたたち、私は優しいだけで美緒が厳しいだけと思ったら大間違いよ。本質的には私の方が厳しいってこと、教えてあげましょう。」
知っている。知っているからこそ、私を含めて隊員一同言葉が出なかった。平和主義を謳ったワイマール憲法が、後にリーネの母国で最恐の独裁者を生み出しかけたように、理知的な風貌の裏に秘めたものがあるとすれば、それほど恐ろしい存在は無いということだ。
「美緒、始めなさい。」
「お、おう!」
そして坂本美緒によって「501戦闘航空団総動員法」が読み上げられ、その恐るべき内容は隊員たちを震撼させた。
基地における一切の行動を、ネウロイと戦争完遂を最優先としたものとすることとし、あらゆる資源をそれに充てるものとするという内容。
それに伴い快楽は否定され、隊員たちが嗜んできたあらゆる娯楽・癒しは禁止された。
“ズボン”の配給は隊長直々に行い、嗅ぐ、触る、頭に被るといった目的外・破廉恥な使用の禁止、戦闘行動に伴う不可抗力以外の肉体的接触の禁止、おっぱい及び腰、フトモモなどの“そそる部分”への接触及び凝視、淫乱な思想行為の禁止、枕元ドッグファイトの禁止、定時以外の食事、睡眠、排泄、入浴、外部交信の禁止、あらゆる部分への禁止が言い渡された。そしてその禁を犯した者には、異動までの永久掃除当番、一週間の入浴禁止、半日ごとの反省文提出・・・と、少女にとっては恐るべき厳罰まで用意されていた。
宮藤は嗚咽した。
「そんな・・・私これから、何に癒されればいいんですかぁ!?」
トゥルーデは地団太を踏んだ。
「私は妹に・・・妹に会えないというのか!?」
シャーリーはぼやいた。
「めんどくさいなぁ・・・別にいいじゃん?」
エイラとサーニャは震えていた。
「一緒に寝られないの・・・?」
「イヤダヨ;×;」
リネットは複雑な顔をしていた。
「胸をもまれなくなったのはいいんだけど・・・。」
私はというと、部屋を片付けなきゃいけないのかと少しかったるい気持ちになった。
リーナが一喝した。
「いい加減にしなさい!ここを何処だと思ってるの!?基地よ、基地!ネウロイからみんなを守る為の、最前線なのよ!そんなところに、あんなハシタナイものばかりを持ち込んで、緊張感のない姿をさらして・・・気を引き締めなさい!」
坂本が割って入る。
「な、なあ、いくらなんでもこれはやりすぎなんじゃ・・・。」
「何よ!あなただって最初は私に“部下に甘い”とか説教してたのに、あなたが甘い顔するから、この子たちこんな有様じゃない!!」
「っ・・・・くっ・・・!」
「いい・・・?私が最前線にいたときは、歯を食いしばって、尻尾と耳に力を込めて戦ったものよ・・・!」
説教は明け方まで続き、その日のうちに総動員法は施行された。
しかし、苛烈な弾圧はその対象を撃滅するに至らぬことは、幾多の歴史的事実がそれを証明している。
宮藤の胸部に対する求道、トゥルーデの妹に対しての狂おしいまでの愛情、シャーリーやルッキーニの食欲・睡眠欲、エイラとサーニャの純愛はその捌け口を求めて彷徨い、地下抵抗活動として具現化していくのである。
廊下での出会い頭による接触、浴室(大浴場の使用は絶賛禁止中)での“意図的”遭遇、各隊員の日々の服装の把握等、宮藤の女性の胸への道のりは複雑化、巧妙化し、坂本の監視を掻い潜るに容易いほどの技巧を冴えわたらせていた。元々特異な回復魔法以外に、さしたる特質も体質も持ち合わせていない宮藤のこの扶桑的探究心は、彼女の故郷、扶桑に伝わる大和魂が成し得させたものであろう。
トゥルーデもトゥルーデで、基地内部における秘匿通信システムENIGMA(エンター・イモート・グラフィカル・メール、の略)を構築し、高度なアルゴリズムによって妹への愛を謳い、業務連絡に紛れて妹に送り続けていた。
シャーリーとルッキーニは菓子類や清涼飲料水の闇取引で、基地内の欲望ネットワークにおける主導的地位を確立した。
エイラとサーニャは表向き対立し、戦争しているように見せかけて、実はエイラのスオムス化を精神的方面から確立させようと有形無形の贈り物を届けあっていた。弾圧されるほど純愛が燃え上がるのは、かつてパリで別れた多くのカップルが見せた悲恋の美しさと同様である。パリは萌えているか。
驚くべきことに、ここまでの放埓な状態にもかかわらず、彼女たちがウィッチとしての職務を疎かにすることは一日足りとて無く、ミーナによる全体主義的恐怖統制と坂本の憲兵的監視が緊張感を生み出していたとはいえ、それは彼女たちが無意識に守っていた義務感でもあった。これだけでも守られていれば、総動員法など必要ないのではなかろうか。
しかしそれに気づいていたのが私とリーネだけだということ、リーネは引っ込み思案、私はわが道を行くという普段の印象もあるということで、隊長に伝えようがなかった。
そして総動員法施行から三日後のこと、私は坂本から相談を受けた。
「ミーナに直談判しようと思う。」
「まあ、それがいいんじゃない?」
「ユニットが修理から戻って来る日、お偉方もここに来る。それまでに何としてもこの状況を打開せねば、人員補充どころではなくなる。」
「そうだねえ・・・。」
「行ってくる。」
凛とした後姿を見せつつ去っていく彼女の後姿を見て、私は呟いた。
「どうなることやら・・・。」
私は密かに後を追った。
基地の中にある喫茶店「レイテ」。坂本はここでミーナと待ち合わせをしていた。
私は密かに離れた席に座る。気分はスパイ、祖国カールスラントで噂される凄腕スパイ、リヒャルト・ゲルゲのようではないか。
・・・会談が始まったようだ。
坂本が話し始める。
「あのな、ミーナ・・・今の部隊の事なんだが・・・」
しかしミーナが紅茶を差し出して話の腰を折る。
「はい、ここの紅茶おいしいのよ?今日は私のおごり。」
「あ、・・・ありがとう。」
「言いたいことたくさんあるなら、口を潤さないと。」
「そうだな・・・。」
豪快に、一気に飲み干す坂本。下品ではないが、品もない。
「ふふっ・・・。」
「何だ。」
「可愛いなあ、と思って。今の飲み方に、そういうのが詰まってる。」
俯いて赤面する坂本。こんな姿、後輩たちには見せたことが無い。
(う~ん、上手い・・・。)
ミーナのやり方に私が感心している間に、彼女は話の主導権を奪っていた。
「ウィッチとして戦い始めてから、もうどれくらいになるのかしら?」
「5年くらいだな。」
「早いものよね。私は昔の美緒のことも、昨日のことのように思い出すわ。」
「そのころの私は、みんなを纏めることに必死で、お前にも厳しく言ったことがあったな・・・。」
「あんなの、厳しくもなんともないわ。むしろ嬉しかったわよ。あなたが本当にみんなのことを大切に思ってくれてるんだなって。」
「ミーナ・・・。」
「私は優しく接することでみんなを守っているけど、あなたは厳しくありながらもそれができる・・・素晴らしいことよ。」
「・・・。」
「でもね、あなたも優しくなってきて、昔の魅力も失くしてしまったりしたらと思うと、ちょっと悔しくなっちゃって。だから、あなたにはそれを、その厳しさを忘れてほしくないの。あなたの魅力をね。」
「ミーナ・・・!」
「私は所用で部隊を三日ほど離れるけど、トゥルーデと一緒に、ウィッチーズの事、頼むわね?」
・・・上目遣いで微笑みかけるミーナに、坂本の決意は完全に踵を返していた。
後にこの坂本の変節は、「レイテの謎のUターン」として隊員たちの怨嗟と、事態の更なる混乱を招くことになる・・・。(後編へ続く)
調査部員「部長・・・。」
調査部長「何だ?そんな情けない声を出して。」
部員「いや・・・先日頼まれていた501SWの調査報告書なんですがね・・・。」
部長「ああ、ハルトマンに報告を命じていた例の騒ぎか。思ったよりも早く上がって来たな。」
部員「そうでしょうねぇ・・・。」
部長「不気味な引き笑いをするな。どんな内容だったんだ?」
部員「読めば分かりますよ。」
部長「どれどれ・・・。」
連合軍報告様式2012F
情報機密性 Eランク
連合軍第501統合戦闘航空団における、指揮命令系統喪失の懸案に関しての報告書
報告書 第501統合戦闘航空団所属 エーリカ・ハルトマン 記
大人と子供の境目が、いちばん心が不安で大変だ。。
この度、ストライクウィッチーズはそれを身を以て知ることとなる。
今回、不肖エーリカ・ハルトマンが、ストライクウィッチーズに起きた混乱を報告させていただく。
・・・それは、9月16日に発生した小規模戦闘が発端であった。
スピード狂であるシャーロット・E・イェーガーが加速しすぎてストライカーユニットを壊したのだ。
本人は無事であり、ユニットを壊したこと自体は珍しくもないのだが、問題なのはその回数であった。
9月4日、宮藤芳佳がユニットを破損。原因は訓練中にリーネ(リネット・ビショップ)の胸に見惚れ、防御結界を張り忘れたこと。
9月8日、エイラ・イルマタル・ユーティライネンがユニットを破損。原因はサーニャ・V・リトヴャクとの喧嘩による情緒不安定。
そして翌週、今回の木曜日の事故で、9月に入って既に3回目。ユニットが無ければ出撃することはできず、戦力が減ることになる。
ミーナ隊長以下指揮官相当のウィッチが司令部にユニット及びウィッチの追加を掛け合うも許可されず、過酷なシフトで戦う羽目になった。
楽天家のリベリアン、シャーリーは新型ストライカーユニットに惚れ込み、任務外でも飛び回り続けていた。一見快活で微笑ましく見えるも、その裏ではユニットの消耗、枯渇が現実的問題として浮上し、結局発現してしまったということだ。今回の騒動の発端となったこのシャーリーの向こう見ずなバカ騒ぎとユニットの枯渇を、隊員たちは「暗黒の木曜日、おっぱいウォール街の悲劇」と呼んだ。
ここまでが騒動の序章であり、そして木曜日の夜、騒動は一気に過熱した。
夜の整備棟。
ボロボロになったユニットを見て、隊長のミーナが重い口を開く。
「・・・ユニット、もう無くなったんだっけ?」
「デフォルトのものならあるが、吹っ飛んだシャーリーのユニットは一点物のカスタムだからなあ。」
現場指揮官であり教官でもある坂本美緒が答える。
「でもスピード狂からスピードを取ったら、ただの狂人よ。どうにかしないとね。」
疲れからかいつになく棘のあるミーナの物言いに、坂本は少したじろぐ。
「言うなあ・・・。でも、修理を発注しても4,5日はかかるしなあ。」
「じゃあ、その感はシャーリーに大人しくしてもらうわ。車も没収ね。」
「・・・。」
軍人らしくハッキリと返事をしない坂本に、ミーナが訊く。
「どうしたの?」
「い、いやあ、文句があるわけではないんだが・・・これ以上穴を埋めるのは厳しいかな、と・・・。」
「皆で助け合うのがウチのモットーでしょ?」
「そうは言ってもなあ、連中、疲労がピークに達しているんだ。自分の時間が持てなくて辛そうだよ。」
「あなたがそれを言う?軍人なんだからしょうがないでしょう?」
「あのトゥルーデが弱音を吐くほどなんだぞ?“今月に入ってゆっくり電話できたのがたった2回、これは姉妹の仲の危機だ!”ってな。」
ミーナがふとアラートハンガー(夜間待機任務の詰所)を伺うと、当番であるトゥルーデがウトウトしていた。目の下にクマを作りながら、頬を赤く染めて夢見心地という、不健康極まりない顔つきであった。因みに私も当番だったが、同じく当番のペリーヌとポーカーをしていた(が、私は興味本位でふたりの動きを目で追っていた)。
「半月で二回も電話すれば充分すぎる気もするけど・・・。」
「家族を恋しく思う気持ちに、制限は無いさ。戦場にいると、特にそうだ。」
「・・・あなたって反則よね。普段厳しいのに、突然狙ったように優しくなるんだから。」
「私はそういうつもりじゃ・・・」
「それが自然にできるのがいいなって言ってるの。」
そう言ってこちらに振り返ったミーナの動作に、そこはかとない可愛さを感じたと、坂本は後に述懐していた。
「ミーナ、確かに上層部が頭でっかちなのは分かるけど、もう一回ユニットや人員の補充を掛け合ってみよう。」
「また小言を聴かされる羽目になるのね・・・。」
「私も一緒に行く。・・・側にいる!」
頼りがいのある坂本の言葉に、安らかな笑顔を見せたリーナ。
「・・・あなたがそこまで言うなら、仕方ないわね。」
書類を作らないとね、と言い、リーナは隊長室へ向かう。坂本の陳情が功を奏したのだ。
しかし坂本は、ここで“余計なこと”をする。事実上混乱の口火を切ったとされるこの意図せぬ奇襲攻撃は後に、隊員たちから“リメンバー宮藤部屋”と呼ばれることになる。
「宮藤の寝顔見てくれよ。ガキみたいだけど、疲れていてさ、何とかしてやりたくなるよ、あれ見ると。」
そう言って、隊員たちが休む寝室で、ふたりが目にしたのはアポカリプスであった。
シャーリーの胸に吸い付いたまま爆睡する宮藤。“ズボン”すら履いていなかった。
シャーリーはシャーリーで、自分と宮藤の“ズボン”をリベリオン軍M1ヘルメットよろしく二重構造で頭に被り、ご満悦の寝顔であった。
ルッキーニは珍しくシャーリーではなくリーネに抱きついていた。お互い逆さまで。互いの尻を求めて寝る様は、まさしく―――。
「な・・・何とかしてやりたくなるだろう?疲れる位戦闘しちゃってさ・・・ほら、まさしく巴戦(ドッグファイト)な格好で、ははっ。」
「ええ・・・そうねえ、夢の中でもコンバット・ハイのご様子で。」
「コンバットの意味が違うぞ、ミーナ。」
「どういうことなの、これ!?準待機中は自室就寝が原則でしょ!?何なのよ、この宴会後のような惨状は・・・ん?」
ミーナが何かを見つける。何かの本のようだ。
瞬間、坂本は戦慄する。そうだ、ここは宮藤の部屋・・・まずい。
「何?“魅惑の戦闘機動”・・・“機上のスプリットS”・・・“指先のロッテ戦法”・・・。」
「ダメだこりゃ。」
坂本がそう呟いたとき、本を読むミーナの顔から湯気が立っていた。怒りか、恥じらいか。少しカワイイとか思ってしまったのは内緒なんだろうが、私エーリカは坂本の口元がだらしなくなるのを目撃している。
「な・・・何よこれ!?こんな破廉恥な本で何をしようというの、宮藤さんは!?」
「こ、好奇心旺盛なんだよ・・・。」
「こんな好奇心要りません!ああもう、この子たちは明日からユニット修理完了までずっとシフト!・・・エイラとサーニャはどうかしら?」
「しっかりしていると思いたいが・・・。」
時既に遅し。部屋に辿りついた二人が見たのは、心も体もエイラによって「スオムス化」されたサーニャの姿であった。親密に眠る二人は、ここに記すことができないほどに密着し合っていた。
「・・・決まりね、美緒。」
「・・・裸の付き合いは、許してくれんのか?」
「ダメ。」
私は、制服だけでなく顔色まで真っ白になった坂本の姿を忘れることができない。
坂本は号令をかけた。
「ニイタカヤマノボレェエエーーーーッ!!」
それとともに起床ラッパが鳴り、隊員一同整列させられる。
ミーナは訓示を始めた。
「あなたたち、私は優しいだけで美緒が厳しいだけと思ったら大間違いよ。本質的には私の方が厳しいってこと、教えてあげましょう。」
知っている。知っているからこそ、私を含めて隊員一同言葉が出なかった。平和主義を謳ったワイマール憲法が、後にリーネの母国で最恐の独裁者を生み出しかけたように、理知的な風貌の裏に秘めたものがあるとすれば、それほど恐ろしい存在は無いということだ。
「美緒、始めなさい。」
「お、おう!」
そして坂本美緒によって「501戦闘航空団総動員法」が読み上げられ、その恐るべき内容は隊員たちを震撼させた。
基地における一切の行動を、ネウロイと戦争完遂を最優先としたものとすることとし、あらゆる資源をそれに充てるものとするという内容。
それに伴い快楽は否定され、隊員たちが嗜んできたあらゆる娯楽・癒しは禁止された。
“ズボン”の配給は隊長直々に行い、嗅ぐ、触る、頭に被るといった目的外・破廉恥な使用の禁止、戦闘行動に伴う不可抗力以外の肉体的接触の禁止、おっぱい及び腰、フトモモなどの“そそる部分”への接触及び凝視、淫乱な思想行為の禁止、枕元ドッグファイトの禁止、定時以外の食事、睡眠、排泄、入浴、外部交信の禁止、あらゆる部分への禁止が言い渡された。そしてその禁を犯した者には、異動までの永久掃除当番、一週間の入浴禁止、半日ごとの反省文提出・・・と、少女にとっては恐るべき厳罰まで用意されていた。
宮藤は嗚咽した。
「そんな・・・私これから、何に癒されればいいんですかぁ!?」
トゥルーデは地団太を踏んだ。
「私は妹に・・・妹に会えないというのか!?」
シャーリーはぼやいた。
「めんどくさいなぁ・・・別にいいじゃん?」
エイラとサーニャは震えていた。
「一緒に寝られないの・・・?」
「イヤダヨ;×;」
リネットは複雑な顔をしていた。
「胸をもまれなくなったのはいいんだけど・・・。」
私はというと、部屋を片付けなきゃいけないのかと少しかったるい気持ちになった。
リーナが一喝した。
「いい加減にしなさい!ここを何処だと思ってるの!?基地よ、基地!ネウロイからみんなを守る為の、最前線なのよ!そんなところに、あんなハシタナイものばかりを持ち込んで、緊張感のない姿をさらして・・・気を引き締めなさい!」
坂本が割って入る。
「な、なあ、いくらなんでもこれはやりすぎなんじゃ・・・。」
「何よ!あなただって最初は私に“部下に甘い”とか説教してたのに、あなたが甘い顔するから、この子たちこんな有様じゃない!!」
「っ・・・・くっ・・・!」
「いい・・・?私が最前線にいたときは、歯を食いしばって、尻尾と耳に力を込めて戦ったものよ・・・!」
説教は明け方まで続き、その日のうちに総動員法は施行された。
しかし、苛烈な弾圧はその対象を撃滅するに至らぬことは、幾多の歴史的事実がそれを証明している。
宮藤の胸部に対する求道、トゥルーデの妹に対しての狂おしいまでの愛情、シャーリーやルッキーニの食欲・睡眠欲、エイラとサーニャの純愛はその捌け口を求めて彷徨い、地下抵抗活動として具現化していくのである。
廊下での出会い頭による接触、浴室(大浴場の使用は絶賛禁止中)での“意図的”遭遇、各隊員の日々の服装の把握等、宮藤の女性の胸への道のりは複雑化、巧妙化し、坂本の監視を掻い潜るに容易いほどの技巧を冴えわたらせていた。元々特異な回復魔法以外に、さしたる特質も体質も持ち合わせていない宮藤のこの扶桑的探究心は、彼女の故郷、扶桑に伝わる大和魂が成し得させたものであろう。
トゥルーデもトゥルーデで、基地内部における秘匿通信システムENIGMA(エンター・イモート・グラフィカル・メール、の略)を構築し、高度なアルゴリズムによって妹への愛を謳い、業務連絡に紛れて妹に送り続けていた。
シャーリーとルッキーニは菓子類や清涼飲料水の闇取引で、基地内の欲望ネットワークにおける主導的地位を確立した。
エイラとサーニャは表向き対立し、戦争しているように見せかけて、実はエイラのスオムス化を精神的方面から確立させようと有形無形の贈り物を届けあっていた。弾圧されるほど純愛が燃え上がるのは、かつてパリで別れた多くのカップルが見せた悲恋の美しさと同様である。パリは萌えているか。
驚くべきことに、ここまでの放埓な状態にもかかわらず、彼女たちがウィッチとしての職務を疎かにすることは一日足りとて無く、ミーナによる全体主義的恐怖統制と坂本の憲兵的監視が緊張感を生み出していたとはいえ、それは彼女たちが無意識に守っていた義務感でもあった。これだけでも守られていれば、総動員法など必要ないのではなかろうか。
しかしそれに気づいていたのが私とリーネだけだということ、リーネは引っ込み思案、私はわが道を行くという普段の印象もあるということで、隊長に伝えようがなかった。
そして総動員法施行から三日後のこと、私は坂本から相談を受けた。
「ミーナに直談判しようと思う。」
「まあ、それがいいんじゃない?」
「ユニットが修理から戻って来る日、お偉方もここに来る。それまでに何としてもこの状況を打開せねば、人員補充どころではなくなる。」
「そうだねえ・・・。」
「行ってくる。」
凛とした後姿を見せつつ去っていく彼女の後姿を見て、私は呟いた。
「どうなることやら・・・。」
私は密かに後を追った。
基地の中にある喫茶店「レイテ」。坂本はここでミーナと待ち合わせをしていた。
私は密かに離れた席に座る。気分はスパイ、祖国カールスラントで噂される凄腕スパイ、リヒャルト・ゲルゲのようではないか。
・・・会談が始まったようだ。
坂本が話し始める。
「あのな、ミーナ・・・今の部隊の事なんだが・・・」
しかしミーナが紅茶を差し出して話の腰を折る。
「はい、ここの紅茶おいしいのよ?今日は私のおごり。」
「あ、・・・ありがとう。」
「言いたいことたくさんあるなら、口を潤さないと。」
「そうだな・・・。」
豪快に、一気に飲み干す坂本。下品ではないが、品もない。
「ふふっ・・・。」
「何だ。」
「可愛いなあ、と思って。今の飲み方に、そういうのが詰まってる。」
俯いて赤面する坂本。こんな姿、後輩たちには見せたことが無い。
(う~ん、上手い・・・。)
ミーナのやり方に私が感心している間に、彼女は話の主導権を奪っていた。
「ウィッチとして戦い始めてから、もうどれくらいになるのかしら?」
「5年くらいだな。」
「早いものよね。私は昔の美緒のことも、昨日のことのように思い出すわ。」
「そのころの私は、みんなを纏めることに必死で、お前にも厳しく言ったことがあったな・・・。」
「あんなの、厳しくもなんともないわ。むしろ嬉しかったわよ。あなたが本当にみんなのことを大切に思ってくれてるんだなって。」
「ミーナ・・・。」
「私は優しく接することでみんなを守っているけど、あなたは厳しくありながらもそれができる・・・素晴らしいことよ。」
「・・・。」
「でもね、あなたも優しくなってきて、昔の魅力も失くしてしまったりしたらと思うと、ちょっと悔しくなっちゃって。だから、あなたにはそれを、その厳しさを忘れてほしくないの。あなたの魅力をね。」
「ミーナ・・・!」
「私は所用で部隊を三日ほど離れるけど、トゥルーデと一緒に、ウィッチーズの事、頼むわね?」
・・・上目遣いで微笑みかけるミーナに、坂本の決意は完全に踵を返していた。
後にこの坂本の変節は、「レイテの謎のUターン」として隊員たちの怨嗟と、事態の更なる混乱を招くことになる・・・。(後編へ続く)
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